米国特許訴訟の流れ

米国特許訴訟にはいくつかのフェーズがあります。訴状提起から裁判が終わり判決が出るまでの期間は、特許の有効期限や裁判所の状況などに左右され一概には言えません。

まず全体の流れをざっとご説明いたします。

  1. 訴状提起
    • 訴状(Complaint)を原告が提出し、裁判が特定の裁判所に係属します。
    • 特許法は連邦法であるので、訴状は連邦地方裁判所に出されます。
  2. 請求や主張の交換
    • ここではContentionsと呼ばれる自身の主張をまとめた文書を原告と被告とで交換します。
    • 訴状提起からディスカバリーに入るまでの間に、訴訟のスケジュールを決める会議や、秘密文書へのお互いのアクセス、ディスカバリーに関する取り決めなどをします。
  3. ディスカバリー(証拠開示手続き
    • 事実ディスカバリー
      • 関連する文書をお互いに検索し、提出します。
      • 事実証人や会社証人のデポジションが行われます。
    • 専門家ディスカバリー
      • 争点に関して専門家がレポートを交換したり、デポジションを受けたりします。
  4. クレーム解釈(Markman Hearing)
    • 特許のクレームを解釈するための審理で、それに先立ちどのクレームのどの単語(またはフレーズ)を解釈するのか、原告と被告が意見を交換し、それぞれの解釈について趣意書(Brief)を交換します。
    • Markman Hearingの時期については、裁判所が決定することができ、ディスカバリーの中で行われることもありますが、そのあとになることもあります。
  5. 裁判前期間(Pretrial Period)
    • 裁判前の時期で、略式判決(Summary Judgment)を求める動議(Motion)など、様々な動議がされることがあります。
    • Pretrial Conferenceと呼ばれる、裁判の進行などを決める会議が開かれます。
  6. 裁判

デポジション用語解説

米国特許訴訟に関わる場合に一つの山場になるのがデポジションで、この耳慣れない制度に戸惑う日本の会社も多いようです。

デポジションは日本語では、証言録取と言い、「証人が宣誓して、証言を記録されている状態で、証言をすること」を指します。①事実を直接する人が証人になる事実証人デポジション、②会社として知っている事実を述べる会社証人デポジション、③専門家として意見を述べる専門家デポジションなどがありますが、ここではまず事実証人デポジションについて簡単に関連する英語の用語を解説していきます。

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Attorney -弁護士のことで、デポジションでは質問をする側(証人とは逆の立場)と防御する側(証人と同じ立場)の弁護士が両方在席します。ミニマムは質問をする弁護士一人で防御する弁護士一人ですが、複数人在席することも多くみられます。弁護士、証人以外にも、証人の会社の人(例えば法務部の方)なども参加することがあります。

Break -休憩。デポジションは朝の9時などに始まることが多く、どこかでお昼休憩を取りますが、それ以外にも証人は疲れたら休憩を要求することができます。

Court reporter -法廷速記者のことですが、法廷ではないデポジションでも一般的にCourt reporterという名称で呼ばれます。法廷速記のサービスを提供する会社があり、デポジションを取る側(証人にとっては逆の立場)の弁護士事務所が手配することが多いようです。

Deposition notice -デポジションの通知。相手方の方から何年何月何日にどこで誰のデポジションを取ります、という通知が事実ディスカバリーの最中に送られてきます。もちろん通知された日で問題なければ大丈夫ですが、通常はこの通知を受け取ってから日にちの調整をします。

Deposition preparation -デポジションの準備。自分の側の弁護士とデポジションに向けて準備をすることで、多くはデポジションの直前に行われますが、デポジションをすることがわかっている証人で準備がより必要だと弁護士が判断した際には前から複数回行うこともあります。準備の戦略は担当する弁護士や弁護士事務所の色がでるところでもありますし、証人の方の状態(デポジションに慣れている人、緊張してしまう人)や案件の性質・争点、相手方の戦略など総合的に考えて決定されます。

Deposition transcript -デポジション記録。質問者が言ったこと、証人の発言、反対する弁護士の意義、通訳同士の会話、などカメラが回っている間にされた会話を原則全て記録した書類で、速記者が作成します。デポジション直後の見直しが入っていないものをRough transcriptといい、(払うお金によって)当日から数日で手に入ります。その後速記者が再びテープを起こしたりして見直したものをFinalとして受け取ります。

Errata -正誤表。例えば速記者が間違えて速記した場合(日本人の名前などはよくある)や通訳が間違っていた場合などに後日訂正箇所をまとめて、相手方に渡します。これ以外にもデポジションの途中で、先ほどの発言が間違っていました、と証人本人が言うこともあります。ErrataはFinal Transcriptに関して作成されます。

Exhibits -証拠文献。一般的には質問をする相手方が、質問をすることに関係する文書を持ってきて、その場でこれはExhibit Xです(Xには通し番号がつけられます)と言ってから証人にみせます。

Interpreter -通訳。証人が英語を母国語とせず英語に自信がない場合は通訳の方が入ることが多いです。その場合一人の通訳、というよりは自分側に一人、相手方に一人の二人いて訳のチェックをどちらかがすることが多いようです。同じ通訳の方がデポジションの準備に関連している際には、特にメインの通訳は訴訟の相手方の雇った通訳になり、準備に参加してくれた通訳の方はチェックになる、ということが多いです。

Objection -異議。自分の弁護士が、相手方の弁護士の質問の形式に対して唱えるもので、通常相手方の弁護士の質問が終わってから、証人が答えるまでの間に挟まれる。異議にも多く種類があるが、例えば質問がすでになされて答えたことに対して繰り返し聞いている(asked and answered)や質問が曖昧(vague)などが典型的です。異議がなされても、通常は証人は質問に答えないといけませんが、唯一の例外が質問への回答が弁護士秘匿特権に関わるときで、この際は自身の弁護士に従って答えないことが可能です。

Videographer -デポジションのビデオを撮影する人。ビデオ撮影以外にも時間を管理して、デポジションの開始と終わりを伝えたりします。証人はデポジション中は基本的にビデオの方をみてお話しします。ビデオをとる人と速記者(court reporter)は通常同じ会社(Court Reporting Agency)から派遣されてきます。

Witness -デポジションの証人。真実を話すという宣誓をしてから主として相手方の弁護士の質問に答えます。相手の弁護士の質問の終わった後に、デポジション中に問題となった点につき自身の弁護士から質問があることがあります。

 

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